オーヴェルニュのロマネスク教会堂

 

オーヴェルニュ地方は、フランスの中央部に広がる火山性の高地にあり、牧草に覆われたドーム型の休火山と台地がなだらかに続く、風光明媚な土地です。

Auvergneの火山性丘陵

Auvergneの火山性丘陵

首府のクレルモン・フェランには古代ローマの時代以前から街が築かれ、4世紀には司教座がおかれ、1095年に教皇ウルバン2世が第1回十字軍の結成を呼び掛けた場所としても有名です。

ロマネスクの時代には、フランス北部とスペインのサンチャゴ・デ・コンポステーラを結ぶ巡礼路の都市として栄えました。

オーヴェルニュ様式の教会堂

オーヴェルニュ地方のクレルモン・フェランを中心とした地域には、11世紀末頃から12世紀中頃にかけて、クレルモン・フェランのノートルダム・デュ・ポール聖堂を典型とする、オーヴェルニュ様式とも称される共通の建築様式をもつ教会堂が相次いで建てられました。

オルシヴァルサン・ネクテールサン・サテュルナンイソワール等の地で、この型に属する教会堂を見ることができます。

Clermont Ferrandのロマネスク教会堂

Clermont Ferrand 全景

Orcivalのロマネスク教会堂

Orcival 全景

St.Nectaire 全景

St.Nectaire 全景

St.Saturninのロマネスク教会堂

St.Saturnin 全景

Issoire 全景

Issoire 全景

オーヴェルニュ様式の教会堂は、身廊が横断アーチのない半円筒ヴォールト天井で覆われており、左右の側廊とその階上のトリビューン(階上間)の4分の1円筒ヴォールトで重厚な身廊を支えるという共通の構造で構築されています。
このため、身廊に差し込む光は側廊とトリビューンの外壁に穿たれた窓からの間接照明だけで、教会堂内部は光の抑制された荘厳な雰囲気に包まれます。

オーヴェルニュ様式の特徴

フランスの中世史学者であるルイ・ブレイエは、オーヴェルニュ様式の特徴について、次のとおり記しています。

「前面に玄関間を設け、周歩廊、放射状祭室のある内陣をもち、その下にクリプト(地下祭室)を配置するのがオーヴェルニュ派教会堂の原則である。

方形の双頭を配す場合が多い長方形プランに基づく玄関口(ナルテックス)は、教会堂内部と同じ巾をもち、階上のトリビューン(階上廊)は身廊にむかって開かれている。

窓のない身廊部と側廊とは、アーチとヴォールトによって緊密に結合されている。

身廊の区劃のない半円筒ヴォールトは、その起拱点を4分の1円筒ヴォールトで支えられ、この4分の1円筒ヴォールトは同時に側廊階上のトリビューンをおおっている。

側廊は横断アーチで区切られた交又ヴォールトでおおわれている。

横圧力は、支壁をなす樋のついた壁体まで及んでいる。

はげしく突き出した翼廊の交又部には、トロンプ・ダングル(四隅におかれた扇状に開くアーチ層)の上に置かれた円蓋(ドーム)がそびえる。

さらにその上には、かなり重苦しい方形の台座の上に建つ八角形の鐘塔がそびえている。

クリプト(地下祭室)の上に一段高く建てられた内陣は、円柱に支えられ、超半円アーチの列によって周歩廊に通じている。

周歩廊には小さな放射状祭室(四個の祭室がもっとも一般的)が加えられ、教会堂の中心軸にあたる位置には一個の窓を設けるのが原則である。

同じように、明快な段階づけが建築の外観にも示されている。

教会堂の多様な諸要素が集まる後陣の部分にこの性格が顕著である。

各部分は明確な屋根組を見せ、ピラミッド型の段状をなして互いに積重なる。
上は重量感のある鐘塔に始り、下は放射状に配された祭室、外陣や周歩廊に設けられた祭室にまで到っている。
各々の部分の屋根組には、支柱や、軒鼻飾りのついた切妻仕切壁(隔壁)が加えられている。

軒には市松文様の装飾、窓の周囲には長方形を交互に組合せた軸木刳形装飾が施され、フリーズ には星形、菱形を描く釉薬をかけた陶片が並べられている。」

(ルイ・ブレイエ 「ロマネスク美術」 美術出版社刊)。

クレルモン・フェラン周辺から発したオーヴェルニュ様式は、オーヴェルニュ地方にとどまらず、周辺の地方に広く影響を及ぼし、ロマネスク建築の重要な典型の一つとなっています。