Canigou 柱頭彫刻

Canigou 柱頭彫刻

教会堂に彫り込まれた彫刻

ロマネスクの教会堂を訪れると、見慣れた人物や動物と異なる奇妙な体形や姿態をした彫刻と出会います。
ギリシャ・ローマの均整の取れた理想的な人体の彫像を見慣れた目からすると、なんとも稚拙で「ヘタウマ」といってよいような異色の彫刻にも見えますが、これらの彫刻にロマネスク美術の真髄があると分析したのはアンリ・フォション(1881~1943)です。

11世紀中世ヨーロッパ、当時熱狂的に建てられた教会堂の石造の壁面に彫り込まれたこれらの浮彫がモニュメンタルなヨーロッパ彫刻誕生の狼煙となりました。

ロマネスク彫刻に与えられた課題は、教会堂建築の構成部分それ自体に浮彫を施すということでした。
その目的は新しく建てられた教会堂を目を引く彫刻で飾るとともに、「眼で見る聖書」として人々にキリスト教を布教することにありました。

半円形の壁面である「タンパン」、楔石が並んでアーチを形成する「アーキボルト」、縦長の矩形からなる「中央柱」、逆に横に長い矩形からなる「楣」、円形の底部から方形の頂部に移行する不自然な形体をした「柱頭」――
これらの構成部分は機能的なもので、そもそも装飾されることを目的とはしていないため、抽象的文様で装飾するのであればともかく、人像等の形姿像を彫り込むには不適当な形をしています。

人体のプロポーションを尊重するギリシャ・ローマの伝統に従えば、写実的な人像を彫刻する便法としては、土台となる建物に額縁を架けるように矩形の空間を設定し、その中に人像を配置する方法が考えられます。
縦長の中央柱や側柱、水平に長い楣、半円形のタンパンに対してでも、この方法をとれば土台の形体と無関係に自然なプロポーションの人像を配置することができます。
フォーションはこのような彫刻を「フリーズの彫刻」と名付けました。

ロマネスク彫刻の「枠組みの法則」

しかし、ロマネスクにおいては、土台となる建築部分の形体に合わせて人像を変形し彫り込む試みがなされました。
人像に自由な変形を加えることを躊躇しない、ギリシャ・ローマとは異なる造形原理がこれを可能にしたのです。

フォションは、この新しい試みにロマネスク彫刻の本質を見出し、形姿像を建築空間に従属し適合させるというロマネスク彫刻の特徴を「枠組の法則」と名付けました。
その具体例を見ていきましょう。

柱頭への形姿像の配置

柱頭は円形の底部から方形の頂部に移行するという特異な形体をしており、形姿像を取り込むには極めて不適当なものといえます。
このため、コリント式柱頭に見られるようにアカンサス葉の文様等で装飾されることが一般的でした。

しかし、11世紀になると、柱頭に動物や人間の形姿像が出現するようになります。

サン・ブノワ・シュール・ロワールのフルリー修道院の玄関口にある柱頭彫刻群は、ロマネスクの柱頭彫刻がコリント式の柱頭を土台として構想されたことを物語っています。

ここに並べられたコリント式の柱頭と形姿像が彫り込まれた柱頭とを対比すると、形姿像がコリント式柱頭で追及された機能美(角の渦巻き飾り、正面中央の円環飾り、水平環状飾り、稜線等)に従い配置されていることが分かります。

このため、動物や人間の姿は必然的に変形と歪曲を受けることになり、新たな動きや身振りが生まれます。
説話的場面はアカンサス葉の文様を土台とすることで統一性が与えられ、柱頭の狭隘な空間に圧倒的なドラマが表現されることになりました。

同様の工夫は多くの柱頭彫刻で取り入れられ、ロマネスク特有の頭部の大きい短躯の人物が柱頭に居並ぶことになります。

タンパンへの形姿像の配置

半円形のタンパンに形姿像を取り込み、かつ有機的に配置することは容易ではありません。

これに対する最初期の試みは、スペイン、アラゴン地方のサンタ・クルス・デ・ラ・セロスハカのタンパンで見ることができます。

キリストの頭文字であるXとPを組み合わせたキリストの象徴(クリスム)を中央に配置し、これを獅子や天使がタンパンの円弧に沿って左右から支えるという構図が自然な解決法となりました。
この方法はクリスムをキリスト像に置き代えるなどして広範に用いられます。

トゥールーズのサン・セルナンの「キリストの昇天」のタンパンでは、より洗練された構図となっています。
人物像はタンパンをとり囲むアーキボルトとの境界線に従って順次段階づけられて配置され、中央付近では空間の寸法に応じて引き伸ばされています。

Toulouse / St.Sernin タンパン

Toulouse / St.Sernin タンパン

 

サン・セルナンで生まれた建築と彫刻との新しい諸関係はモアサックにおいて壮大に開花することになります。

Moissac タンパン

Moissac タンパン

アーキボルトへの形姿像の配置

タンパンのアーチ部分を構成するアーキボルトは一層特殊な形体をしています。

ロマネスクの彫刻家はこの特殊な場所にも形姿像を取り込もうとし、特にフランス南西部地方で多く見られるタンパンをもたない扉口では、アーキボルトの装飾に様々な工夫がなされました。

アーキボルトに浮彫を施す場合には、くさび石のひとつひとつに浮彫をして放射状に並べる方法とアーチのカーブを構成する複数のくさび石にまたがって浮彫を施す方法の2つがあります。

オーネィのアーキボルトに施された戦士の群像は、アーキボルトそのものとなって稜線を美しく構成しており、ロマネスク彫刻の真髄を表した傑作といえます。

中央柱、側柱への形姿像の配置

中央柱や側柱の縦長の枠内においては、与えられた空間を占有すべく人像は身体を引き伸ばした形となります。

一方、水平に長い帯状の楣においては、人体の比例は短縮され、頭部の大きい短躯の人物で占められます。

ロマネスク彫刻の「牽引の法則」

ロマネスク彫刻の展開の過程には「静止的形体から動的形体への移行」という大きな流れをみることができます。

人像等の形姿像を建築空間に彫り込む方法として、形姿像を変形して枠組みの中の閉じ込めるだけではなく、人像と枠組との接触を頭、肩、肘、膝の突出部によって行うという試みがなされ、これにより膝を開き、閉じ、折り曲げ、身をかがめる等のロマネスク彫刻独特の運動の表現が生み出されました。

フォシヨンは、これらの運動する人像と枠組の各接点の間には三角形の構図があるとし、それらの幾何学的技法は当時の石工や彫刻家が仕事にとって不可欠な知識として有していたと推測します。

このように形姿像と建築空間の枠の接触を保つことで建築空間を充填させるというロマネスク彫刻の特徴を、フォーションは「牽引の法則」と名付けました。

その典型例を見てみましょう。

 

France,Autun イヴの誘惑

France,Autun イヴの誘惑

Souillac 扉口彫刻

Souillac 預言者イザヤ

♦フォションがロマネスク彫刻の真髄として見出した「枠組みの法則」「牽引の法則」の詳細については、特設コーナーの「アンリ・フォションとロマネスク彫刻を巡る」をご覧ください。

1 ロマネスク彫刻の誕生
2 建築の構成部分に彫り込まれた形姿像と「枠組みの法則」
3 形姿像の変形と「牽引の法則」
4 ロマネスク彫刻の生み出した「運動」

ロマネスク美術館  Museum of Romanesque Art (MORA) トップページに戻る